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ある在家仏教者(『いのち尊し 加藤辨三郎著作集』より)

ある在家仏教者などともうしますと、名も知られない市井の誰かのことかとお察しになるでしょう。 じっさい私も、そういうおかたをご紹介したいのです。ところが、残念なことに、 そういうおかたに限って、おもてに仏教者顔を見せてくださいませんので、なかなか見出せないのです。また、たとえ見出しましても、そういうおかたは必ず名前や写真の誌上に載ることをおきらいになるにちがいありません。いま、ここにご紹介もうし上げますおかたも元来そういうタイプです。しかし、そのかたは、ご本人の意志に反して、あまりにも有名になってしまわれました。経済団体連合会会長土光敏夫氏がその人です。 経済団体連合会は普通「 経団連 」と略称され、 そのまま世界語になっています。この経団連の会長は、日本の経済界を代表する立場にありますので、マスコミではしばしば財界の総理などともうします。 そう聞くとみなさまは、すぐブルジョアの代表かのように早合点なさるかもしれません。ところがじつは、それとは正反対のおかたなんです。凡そ、地位や名誉や財産にかまけている人ではないのです。洋服はすり切れるまで着、靴は何ベんも何べんも裏打ちをしてはき、一本のブラッシュでさえも大切に大切に使えるところまで使って行く人なのです。「うちから粗大ゴミはひとつも出ないよ」と私に笑っていわれたことがあります。それにちがいないのです。そして、残った金は教育助成のため惜しみなく使っていらっしゃるようです。

土光さんは、 睡眠は5時間にきまっているそうです。でもベッドには5時間半横たわっているともうされます。 その差30分は読書にあてられるそうです。どうやら、『在家仏教』と『法華』とを読まれるようです。そして、朝のおつとめに必ず「法華経」の一部を読誦(声をあげて)なさるのです。 主として「方便品」を読むと私に語られました。

そのあと、軽い運動(木剣振り)をしてご出勤です。 事務所(東芝)には毎朝7時30分に到着、それ故秘書室はその時刻にちゃんと開かれています。9時もしくは9時30分までに社用を全部すませ、それからが経団連はじめあまたの公用です。それはそれは、普通の人なら一日で降参するほどの忙しさなのです。それを、氏は、寸暇も休まず片づけられるのです。超人ともうし上げても過言でありません( ちなみに氏は当年80歳 )。

そして、夜のおつとめもまた「法華経」の読誦です。 氏は、私におっしゃいました。
「お経を読誦すると一切のストレスがきれいさっぱりと解消するね。」

このような土光さんでありますのに、氏は未だかつて自分から仏教について語られたこともなく、仏教者らしい顔をされたこともありません。これこそ願わしい在家仏教者の姿ではないでしょうか(土光さんから叱られることを覚悟の上で一筆いたしました。また、私自身は、土光さんと反対に、仏教についておしゃべりすることが多く慚愧にたえません)。

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